カッチャオ検証ファイル  

image画像  昨年の秋、Uさんは車検を迎えたことをきっかけに車を買い替えた。それまでは1BOXタイプの軽自動車に2年ほど乗っていたのだが、職場の同僚や友人達の何人かが同じ時期に車を買い替えたことに触発されてしまったのである。
 Uさんが新たにマイカーに選んだのは、古いタイプのRV車だった。もちろん中古である。現行モデルに比べると装備や性能面ではさすがに劣ってはいたが、いかにもRVという感じの無骨なスタイルが気に入ったのである。
 車を買い替えて以来、Uさんのカーライフは一変した。それまでは通勤と街乗りが中心だったが、ロングドライブにも積極的に出かけるようになった。この冬にはスキー旅行も計画していたし、春になったらオフロード走行にもチャレンジしてみたいと考えていた。

 年が明けて間もなく、Uさんの住む地方に強い寒波が到来し、その影響でまとまった雪が降った。例年、この時期が来ると憂鬱な気分になったUさんだったが、今年は違っていた。何しろ、自分の車は4WD、それもRVタイプなのだから。どうせ降るのなら、ドカンと降ればいい。Uさんはそんな風にさえ思った。
 雪は2日ほど強く降ったため、寒波が緩んだ後もけっこうな量の雪が積もった。幹線道路にもところどころに除雪しきれなかった雪が残っていた。当然ながら普段よりも通勤時の渋滞は激しくなったが、それ以外にUさんは特にストレスや不安を感じることなく運転することができた。車を買い替えて正解だった、Uさんは何度もそう思った。
 その日、Uさんは急な仕事がいくつか重なり、会社を出たのは午後10時を回っていた。この日に入っていたデートの予定をキャンセルせざるを得なくなり、Uさんはいささか不機嫌だった。駐車場にある自分の車は、夜になって降り出した雪で薄く覆われていた。夜風が冷たかった。Uさんは乱暴に手で窓の雪を払って視界を確保し、そのまま帰路に就いた。
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 会社から自宅までは普段なら20分ほどの距離だが、雪が降り出してからは30分はかかるようになっていた。国道に出ると、この時間帯にしては車が多かった。雪は止んでいたが、積雪があるためか、ノロノロ運転の車が目立った。
 Uさんはイラつきながらも国道を進み、いつもの交差点を右折して地方道に入った。あとは道なりに進めば自宅が近づいてくる。交通量もぐんと減ったため、Uさんは車のスピードを上げて地方道を進んだ。
 黄色の点滅状態になった信号が見えてきた。この交差点を抜ければもう自宅は目と鼻の先にある。Uさんは交差点をそのまま通過しようとした。その時、何かが動いているのが視界に入った。人か? Uさんは思わず急ブレーキを踏んだ。しかし、無情にも車は止まってはくれなかった。スリップ! 制御不能となった(Uさんのドライビングテクニックでは…)車はそのままガードレールへと向かっていった…。
 車を降りたUさんはしばらく立ちつくしたままだった。ガードレールに衝突したUさんの車は、フロント部分がかなり壊れていた。もちろん、ガードレールも破損していた。
 「あんた、大丈夫か?」
 その声にUさんが振り向くと、中年の男性が立っていた。その後ろにはタクシーが止まっていた。通りかかったタクシーの運転手が心配して車を降りてきたようだった。
 「ええ、何とか…」
 「それならよかった。警察と保険会社に連絡した?」
 その声に促されるように、Uさんはダッシュボードから車検証のファイルを取り出した。確か、そこに保険証書が入っている。保険会社の連絡先もあるはずだ。
 あっ…Uさんは小さな声を上げた。以前に乗っていた軽自動車の車種とナンバーが目に入ったからだった。まずい…Uさんは再び立ちつくしてしまった…。

カッチャオの見解
image画像 今回のケースを事故の形態だけで判断するなら、Uさんが起こした自損・物損事故ということになる。状況を見る限り、Uさんが慌てて急ブレーキをかけてしまったために車がスリップし、制御不能となってガードレールに衝突してしまったのである。
 従って、自動車保険を使った事故処理も以下のようになるのが一般的だ。Uさんの車の損害は車両保険(加入していれば)、ガードレールの損害は対物賠償保険によって賄うことができる。仮にUさんがケガをしていれば、その治療費は搭乗者傷害保険から支払われることになる。
 しかし、今回のケースには大きな問題点がある。Uさんの自動車保険の契約内容が、車を買い替える前の内容(前に乗っていた軽自動車で契約)のままだったのである。ご存じの通り、自動車保険証書には契約内容や契約者の住所、氏名等に加え、被保険自動車(補償の対象となる車)の情報が明記されている。Uさんの保険証書には、その欄に以前の軽自動車の情報が記されていたのである。
 つまり、Uさんは事故発生時、自動車保険の契約内容とは異なる状況にあったと言うことができる。別の言い方をすれば、Uさんの現状は契約された内容ではないということだ。
 それでは、今回のケースでは、Uさんは補償を受けることができるのだろうか? 残念ながら答えはNOだろう。
 本来は、車を買い替えた(契約内容とは異なる車に乗ることになった)場合は、直ちに保険会社に対して車両入れ替えの手続きを行う必要がある。どの保険会社も通常は1ヵ月ほどの猶予期間を定めている(補足しておくと、従来の自動車保険は猶予期間内であっても車両損害補償は除かれていた。しかし、近年の保険の多様化に伴い、車両損害も補償される傾向が強まっている)が、Uさんの場合は買い替えてから数ヵ月は経過していると考えられるので、契約は履行されないだろう。
 そのため、Uさんは今回の事故処理に係る金額(修理費等)は全て自己負担しなければならない。Uさんにとっては何とも辛い結論となりそうだが、厳しい言い方をすれば自らが手続きを怠ったことが原因なのであり、自業自得というしかないのである。

 もちろん、保険内容の変更手続きをする必要があるのは、今回のように車を買い換えた場合だけではない。
 例えば、子供が免許を取得して親の車を運転するようになった場合、年齢制限をそのままにしておいたことで、(年齢が契約内容に合致していない)子供が事故を起こしても補償を受けられないケースも少なくないという。
 また、近年の保険は契約内容が細分化しており、エアバッグやABS等の有無、免許の色など様々な要件によって保険料も異なってくる。万一の際にスムーズな事故処理が行えるよう、保険証書に記されている内容に変更があった場合は、直ちに保険会社を通じてしかるべき手続きを行ってもらいたい。
 
 さらに補足すれば、本格的な冬を迎え、事故のリスクも高まっている。自分のテクニックや車の性能を過信することなく、くれぐれも安全運転に努めてもらいたい。快適なカーライフの第一歩は事故の当事者にならないことである。それが2004年最初の本誌から読者の皆さんへのメッセージとしたい。
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 公道を走行する以上、周囲に危険をもたらす運転は容認されないものである。当然ながら、罰せられるからではなく、それが車を運転する者の最低限の基本的なルールだからだ。読者の皆さんもこの“単純”なことを改めて認識し、安全運転に努めてほしい。
※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。