カッチャオ検証ファイル  
image画像  話は3月にまでさかのぼる。この地方に多少季節外れのまとまった雪が降った時のことである。例年なら、気の早いドライバーはそろそろスタッドレスからノーマルにタイヤを交換しようかという時期だった。
 週末の夜半から降り続いた雪は街を白く染めた。その日、Kさんは休日出勤で早朝から通勤用の軽自動車で家を出た。天気予報によると、今日いっぱい雪は断続的に降り続くという。幹線道路は除雪済みなのか、路面に雪は少なかった。しかし、凍結している部分も多く、Kさんは慎重な運転を続けた。
 Kさんの職場は国道を右に折れて、路地を抜けたところにある。冬場は除雪が行き届かない地区でもあるため、積雪が多い時は職場にたどり着くことさえ難儀してしまう。何年か前の大雪の際は、轍にタイヤをとられて動けなくなった車が後を絶たなかったこともあった。また、路地の溝に車輪を落としている車を見ることなど、少しも珍しいことではなかった。
 Kさんは国道の交差点を右折し、最初のT字路を再び右折した。この路地をしばらく直進し、2つめのT字路を左折するとすぐにKさんの職場がある。案の定、道路はまだ除雪されておらず、深い轍が路面に刻まれていた。車重の軽い軽自動車ということもあり、道を進むKさんの体に上下左右の震動が伝わってくる。しばらく止んでいた雪がまた降ってきた。Kさんは恨めしそうに窓越しに空を見上げた。
 また、やってるよ……。Kさんは心の中でつぶやいた。右前方、つまり反対車線側(といっても車線の引かれていない道路なのだが)に1台の白い車が不自然に止まっていたのである。その車のタイヤは溝に落ち、動かせなくなっていた。スリップしたのか、雪で目測を誤ったのか……Kさんはその車にちらりと見やると、すぐに前方に視線を戻した。
 
 Kさんの仕事が終わったのは夕方で、外はもう暗くなっていた。外に出ると雪がかなり激しく降っていた。風も強い。駐車場の車は雪に覆われていた。室内にいたためわからなかったが10センチ以上は降ったようだ。Kさんは雪まみれになりながら、車の雪を乱暴に払い落とし、車に乗り込んだ。
 まいった、まいった……早く帰ろう、今週はどこかで代休をとるか。Kさんはそんなことを考えながら車を発進させた。まだ路面は凍結していないようだった。
 風向きのせいなのか、雪がこちら側に向かって吹きつけているため、視界が悪かった。しかし、Kさんはそれほど慎重になることなく車を発進させた。早く家に帰りたいという気持ちに加え、路面が凍結していない状況であり、轍に沿えばスムーズに走れたからである。
 最初のT字路を右折すると、ヘッドライトの光がKさんの視界に入ってきた。前方から対向車が進んできている。その光は次第に大きくなり、Kさんに近づいてきた。そして、いきなりKさんに向かって突っ込んできた(とKさんには思えた)。
 Kさんは思わずブレーキを踏み、ハンドルを左方向に切った。すると、予想以上に車は左方向に向きを変えた。轍にタイヤがとられたのか車が制御できなくなった。Kさんの目の前に白い雪の山が見えた。まずい、そう思った瞬間に、車は鈍い音を立てて止まった。
 Kさんが慌てて車を降りると、Kさんの車は白い車にぶつかっていた。Kさんの車はフロントの左側が破損し、白い車は左側の後部ドアが凹んでいた。
 Kさんが事情が飲み込めたのは、しばらくしてからだった。それは朝に見かけた白い車だった。降り続いた雪が車体を覆ってしまい、車の存在を判別できなかった。この車が止まっていなければ、こんなことにはならなかったのに。Kさんは思わず天を仰いだ。Kさんの顔には遠慮無しに雪が降り注いだ……。
カッチャオの見解
image画像 Kさんにしてみれば、いくつもの不運が重なって起きた事故と言えるだろう。時期外れの積雪、休日出勤、放置車両の存在、視界の悪化、対向車両の予想外の接近……。これらの要素がどれかひとつでも欠けていれば、この事故は起きなかっただろう。それがKさんの率直な心情かもしれない。
 しかしながら、起きてしまった事故を無かったことにすることはできない。まずは、この事故の経緯を振り返ってみたい。
 雪と暗さで視界が悪化している状況で、Kさんは帰路に就いた。すると、対向車がKさんの車に接近してきた。轍にタイヤをとられたのか、ハンドル操作を誤ったのかは定かではないが、それに慌てたKさんが急ハンドルを切ってしまった。そして、Kさんの車が突っ込んだ“雪の山”は、雪に覆われた放置車両だった。
 改めてKさんの不運を感じてしまうが、このケースの結論ははっきりしている。事故の形態はKさんが引き起こした物損事故である。過失責任はKさんが100%負うことになる。
 従って、事故処理も単純な流れで進む。放置車両の損害はKさんが“弁償”しなければならず、その費用は対物保険で賄うことができる。Kさんの車の損害は車両保険(加入は任意)を使うことができる。もし、この事故でKさんがケガをしていれば、搭乗者傷害保険から治療費を支払うことが可能になる。
 この事故で“被害側”となった放置車両はKさんにすれば迷惑な存在となった。しかし、そのことと事故の過失は別次元の問題である。たとえ、この車が明らかな違法駐車であったとしても、この事故に関する限り、Kさんの過失責任が軽減されることはない。
 また、今回の事故を誘発する形になった対向車両の責任も、状況から判断する限り、問うことは難しいだろう。仮にKさんの車が対向車両と接触していたり、(接触していなくても)対向車両に非があることが明白な状況であれば、Kさんは対向車両に対して損害賠償を請求することもできる。
 
 それでは、今回のケースでは、Kさんはどのような対応をすべきであったのか?
 やはり、想定される危険を回避可能な運転をすべきであった、と言うしかない。悪条件(積雪、視界不良)での運転であれば、普段以上に慎重な運転を心がけるのは、ドライバーの責任である。Kさんには厳しい言い方になるが、前方から車が接近してきたことが認識できた時点で不測の事態に備えた対応(減速あるいは停止、左側に寄る等)をすべきだったのである。
 もちろん、今回のケースでは、対向車両や車を放置しておいたドライバーの対応も決してほめられたものではない。対向車両の運転は慎重さに欠けていると言えるし、公道に長時間車を放置しておくことは、周囲に迷惑になることは明白だ。
 読者の皆さんには、快適なカーライフが運転者一人ひとりの自覚と行動によって成り立つものであることを改めて認識してもらいたい。一人の小さな迷惑行為が、他者を大きなトラブルに巻き込むこともあるのだから。
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 公道を走行する以上、周囲に危険をもたらす運転は容認されないものである。当然ながら、罰せられるからではなく、それが車を運転する者の最低限の基本的なルールだからだ。読者の皆さんもこの“単純”なことを改めて認識し、安全運転に努めてほしい。
※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。