カッチャオ検証ファイル  
image画像 Kさんは去年高校を卒業し、父親の経営する設備工事会社で働いている。Kさん親子のほかに従業員は2人の小さな会社だ。Kさんは大学や専門学校への進学も考えていたが、勉強よりも体を動かすことが性に合っていると思い、父の跡を継ぐことにしたのである。
 小さな頃から父に連れられ、現場で手伝いをしたことはあった。とはいえ、手伝いと実際の仕事は違う。Kさんは見習い扱いで、現場では父や先輩から厳しい指導を受ける日々だった。覚悟していたとはいえ、何度も挫けそうになるKさんだった。
 そんなある日、高校時代の友人から電話があった。今度の週末の夜、久しぶりに仲間で集まろうというのだ。Kさんは二つ返事でOKした。
 
 当日、Kさんが自転車で向かった待ち合わせ場所は、高校時代の溜まり場だった駅前のゲームセンター。集まったのはKさんを含めて8人だった。一行はしばらくゲームに興じた後、近くのカラオケ店に場を移し、歌と会話、そして飲食を続けた。皆未成年なのだが、テーブルの上にはビールも並んでいた。
 時間はあっという間に過ぎ、一行が店を出た時にはすでに日付も変わっていた。8人のうち2人はこの日の朝から用事があるため、帰路に就いた。残りはKさんを含めて6人。全員が量こそ違え、ビールを飲んでいた。Kさんも缶ビール1本を開けており、少しだけ酔っているという自覚があった。
 6人は駅の裏手にあるファミリーレストランで1時間ほど休憩した後、ようやく帰宅することにした。あいにくと外は雨が降っていた。
 「みんなどうやって帰るんだ」
 Aが言った。6人のうち、Kさんは自転車、もう一人は原付バイクで来ており、Aと残り3人はAの車でやって来ていた。
 「雨降ってるから、俺が送ってってやるよ。酔いも覚めたし大丈夫、大丈夫」
 Aが続けた言葉に、異を唱える者はいなかった。6人はそぼ降る雨の中、小走りで駅前の駐車場に向かった。
 「全員乗れるのか?」
 「大丈夫、大丈夫」
 Aの車は古い3ドアのリッターカー。運転席にAが座り、助手席に1人座ると、後部座席に4人乗る計算になる。家が一番近いという理由で助手席に座ったKさんが振り向くと、4人のうち1人がもう1人の膝の上に座っていた。
 「早く行こうぜ、窮屈でたまんねえよ」
image画像  後ろからの声に促されるように、Aは車を路上へと進めた。
 日中は混雑する駅周辺の道路も、この時間になると車はほとんど走ってはいない。一行を乗せた車は国道へと続く道を軽快に走っていた。少し眠くなったKさんは目を閉じていた。
 「うわっ」
 Aが突然、大声を上げた。Kさんが驚いて目を開けると、目の前にはガードレールが迫っていた。Kさんは思わず目を閉じた。激しい衝撃が全身に伝わってきた……。
 しばらくしてKさんは再び目を開け、何が起こったのかを理解した。車がガードレールに突っ込んだのだ。フロントガラスが大破し、運転席のAは苦しそうなうめき声を上げて、顔を伏せていた。後部座席の4人もぐったりとしていた。何人かは出血していた。Kさん自身、額から血を流していたのだが、まだそのことを自覚することはできなかった……。
カッチャオの見解
  状況から判断する限り、この事故はAが運転中に車の操作を誤り、ガードレールに衝突したと考えられる。その結果、車が破損したことに加えて、Kさんを含めた乗員の何人かが(あるいはほとんど)が負傷してしまった。つまり、物損(自損)及び人身事故となってしまった。
image画像  こうしたケースの場合、一般的な事故処理の流れは次のようになる。
 運転者と同乗者のケガは搭乗者傷害保険によって補償され、車両保険(加入していれば)で車の修理費用も賄うことができる。ガードレールなどの修理費用も対物賠償保険を利用して弁償することが可能だ。保険会社と警察(今回は消防署=救急車にも)に速やかに連絡することはもちろんである。
 しかし、今回のケースに、このような“公式”を当てはめることはできない。なぜなら、運転者であるAに加えて、車に乗っていた他の5人がいくつものルール違反を犯しているからである。
 まず、問題視されるのは、一行が飲酒していたということ。運転者のAも飲酒しており、それが事故につながった可能性が極めて高いと思われる。酒酔い、あるいは酒気帯び運転と認定されれば、Aには相応の行政罰と刑事罰が科せられることになる。
 そして、運転者本人(つまり、A)の傷害と車両損害に関する保険金は支払われない。そのことは、保険の約款に「保険金の支払いができない場合」として記されている。
 同乗者のケガに対する補償も、全額が支払われることはまず無理だと思われる。保険代理業者によると「ケースバイケースではあるが、金額を削減されるか、保険会社によっては支払いを拒否されることもある」という。
 というのも、Aを除いた5人はAが飲酒運転であることを知って、Aの車に乗り込んでいる。この時点でAの ルール違反を認めたことへの責任が問われるからである。
 さらに、一行は車の定員を超えて乗り込んでいる(Aの車が3ドアのリッターカーということであれば、定員は5人である)。しかも、後部座席の4人のうち1人は膝の上に座る形で乗車している。定員外乗車と座席ではない場所での乗車は違反行為であり、それが保険金の減額あるいは支払い拒否の理由となるのである。
 補足すれば、いわゆる“ハコ乗り”でケガをしても保険会社は同様の対応をすることになるだろう(ただし、子供が親の膝の上に乗っていた場合なども考えられるため、あくまでケースバイケースではある)。
 それでは、今回のケースでAが飲酒していなかったらどうなるのだろうか?
 この場合は、車両損害の補償は受けることができる。しかし、搭乗者(Aと同乗者)のケガについては、減額されてしまう可能性が高い。というのも、定員外乗車と座席ではない場所での乗車という違反行為があるからである。自動車保険は交通ルールを守ることを前提として契約されるものであり、交通ルールの違反は契約違反につながるのである。
 さて、話をKさんたちに戻す。まずは一行のケガが深刻なものでないことを願いたいが、いずれにせよ楽しかった久しぶりの再会は、後味の悪い結末を迎えてしまったことになる。
 Aはもちろん、Kさんを含めた残りの5人も今回の出来事を深く反省してほしい。万一、6人の中から生命に関わる被害が出たら、衝突したのがガードレールではなく他の車や人だったら…と考えると、背筋が寒くなるばかりである。
 軽い気持ちで犯したルール違反が、取り返しのつかない結果を招いてしまった。そんな例は現実の社会では枚挙に暇がない。読者の皆さんも今回のケースを他山の石として、自らの戒めとしてほしい。
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 公道を走行する以上、周囲に危険をもたらす運転は容認されないものである。当然ながら、罰せられるからではなく、それが車を運転する者の最低限の基本的なルールだからだ。読者の皆さんもこの“単純”なことを改めて認識し、安全運転に努めてほしい。
※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。