Eさんは地元の大学の1年生で、この夏に免許を取得した。といっても、車に乗る機会はほとんどなく、実家に帰った時に父親の車を何度か運転した程度だ。もちろん、自分の車も持ってはいない。Eさんは大学近くのアパートに住んでおり、入学以来ずっと原付バイクで通学している。
大学の仲間には自分の車を持っている者もいるが、Eさんは車のない生活に不自由さを感じることもないため、特に欲しいとも思ってはいなかった。
この夏休みから、Eさんは父親の弟が経営している木工所でアルバイトをするようになった。配達の手伝いや掃除などの雑用が主で、夏休みが終わってからは週に1、2日の割合で顔を出している。
親戚ということもあって、仕事内容に比べてバイト代を弾んでくれるだけでなく、手作業で椅子や机を作っている様子を間近で見ることができるのも、Eさんにはとても嬉しかった。Eさんは子供の頃からプラモデル製作が趣味で、モノづくりの現場の雰囲気が大好きだったのである。
その日は土曜日だったが、Eさんは昼過ぎから木工所にいた。納期の迫った注文品が重なっており、木工所は休み返上で営業していたのである。叔父をはじめ、スタッフ総出で作業が続き、Eさんも出来る限りの手伝いに汗を流した。
「こりゃ、朝までかかるな」
「このまま終わらせて明日は休みましょう」
夕方近くになって、叔父とスタッフたちの会話がEさんに入った。
「お前は帰っていいよ」
叔父から声をかけられたが、Eさんは首を横に振った。どうせ明日の日曜日は予定もない。とことん付き合おう。Eさんは最後まで手伝うつもりだった。
作業が一段落ついたのは、次の日の明け方だった。スタッフたちはさすがに疲れたのだろう、事務所のソファに寝ころんでいる者、椅子に腰掛けて目を閉じている者もいる。Eさんもヘトヘトになっていた。
「腹減ったな、何か食うか」
叔父の言葉に、Eさんは自分が近くのコンビニに買い出しに行くと告げた。
「そうか、頼むな。お前、免許持ってたな。あの車に乗ってけよ。しばらく動かしてないけど、バッテリーは上がってないはずだから」
そう言って叔父はEさんに車のキーを渡した。作業所の隅に置いてある古い軽ワゴン車だった。Eさんはその車に乗り込み、キーを回した。頼りない音だったが、何とかエンジンはかかった。久しぶりの運転ということもあり、Eさんは慎重に木工所の敷地を出て行った。
20分ほど経った頃だろうか、木工所の電話が鳴った。うたた寝をしていた叔父が受話器を取ると、頼りなさげなEさんの声が聞こえてきた。コンビニに向かう途中でハンドル操作を誤り、対向車と接触してしまったのだ。そして、相手のドライバーが警察に連絡し、到着を待っているところだという。車は破損したが、お互いにケガはないとのことだった。
「……相手の人に言われたんだけど、この車、先月で車検が切れてるって。俺、車のこと詳しくないから、何て答えたらいいかわからなくて……」
Eさんの泣きそうな声を聞いて、叔父はあっと声を上げた。この1ヵ月、仕事が忙しくて車検をことをすっかり忘れていたことに気づいたのである。
「今からすぐそっちに行くから。そのまま待ってろよ」
叔父は作業所の外に飛び出していった……。 |
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まず、状況を整理・確認してみよう。
Eさんは叔父の車を借りて買い物に出かけた。その途中で対向車と接触事故を起こしてしまった。しかも、叔父の車の車検が切れていたのである。
事故の詳細な状況は不明だが、Eさんの説明から判断する限り、Eさんに非があると考えられる。通常であれば、事故処理も“簡単”なものになる。
それを改めて説明しておくと、相手の車の損害は対物賠償保険、自分の車の損害は車両保険(任意)で過失割合に応じて賄うことができる。
仮に人身事故に発展すれば、相手方の治療費は対人賠償保険、自分の治療費は搭乗者傷害保険で支払うことができる。この場合も、過失割合に応じて支払金額が決まる。これが、事故処理の基本的な流れになる。
しかし、今回のケースは、決して“通常”ではない。もちろん、Eさんが運転していた叔父の車が車検切れだったからだ。車検切れで一般道を走行すると(無車検運行)、道交法違反となる。運転者(すなわちEさん)の減点は6点で、30日の免停と罰金が科せられることになる。車検切れの車に乗ること自体、運転者としての資格に欠けていると言わざるを得ないのである。
さらに、こうしたケース(車検切れの車を運転)で発生した事故では、自動車保険は適用されない。つまり、Eさんの事故に伴う金銭的な負担(修理費、治療費等)は、全て自己負担となるのである。
また、今回のケースでは、Eさんが他人の車を借りて運転していた点にも注目すべきであろう。車の所有者である叔父が自動車保険に限定条件(年齢、家族等)を付加していて、Eさんがそれに該当していなければ、車検切れでなくても自動車保険は適用されない。
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いずれにせよ、今回の事故はEさんにとってかなり不幸な事態を招くことは間違いないだろう。救いは人身事故に発展しなかった(であろう)ことで、仮に人命に関わるような事故になっていれば、取り返しのつかないことになる。
読者の皆さんにも、軽い気持ちで他人の車を運転する機会は少なくないであろうし、実際にそうした経験を持つ人も多いはずだ。その際は、必ず車検はもちろん、保険条件の確認を行ってもらいたい。それは、運転者としての義務なのである。 |
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※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。 |
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