カッチャオ検証ファイル  
 Kさんはコンピュータ関連企業の営業マン。去年の夏に本社からこの地方の支店に転勤してきた。支店に欠員が出たため、時期外れの異動となったのである。本社から地方への転勤というと、どこかマイナスイメージがあるが、Kさんの場合は違った。Kさん自ら転勤を願い出たのである。というのも、一度支店で自分の力を試したいと思っていたからだった。
 全く縁もゆかりもない土地での生活と仕事には、とまどいが多かった。特に苦労したのは、道を覚えることだった。営業という仕事柄、車で移動することがほとんどだからである。
 本社勤務時は電車で移動することが多かっただけに、転勤当初は悪戦苦闘の日々が続いた。営業車に自腹でカーナビをつけようかと本気で考えたほどであった。最近はようやくこの地方の地理にも慣れてきたが、それでも道路地図は車内の必需品であった。

 その日、Kさんは隣の県にある顧客を訪問した。転勤してきた直後から商談を持ちかけてきた顧客で、Kさんの粘り強い営業の甲斐あって、ようやく大口の商談がまとまろうとしていた。この日の商談も好感触で、正式契約も近いという実感があった。
 Kさんは心地よい疲れを感じながら帰路に就いた。まず、高速で県境を越え、支店に近いインターの一つ手前で高速を降りた。別の顧客の工場に資料を届けるためであった。その後、Kさんは一般道を走り、支店へと営業車を走らせた。その頃にはすっかり日も暮れていた。
 最後に訪問した工場は郊外にあるため、支店に向かうには地方道から国道へ入るルートを使うのが最短コースだった。転勤して間もない頃は土地勘もなく、何度か道に迷ったこともあった。Kさんは田園地帯の一本道から細い路地を通り、国道へ続く通りに出た。あとは道なりにしばらく走れば、国道に入る。Kさんは地元エフエム局のリクエスト番組を聴きながらのんびりと運転を続けた。

 国道へ向かう道路は片側一車線で、この時間帯にすれば交通量は少なめだった。国道へ入る交差点までもうしばらくというところで、Kさんは営業車のガソリンが少なくなっていることに気がついた。そして、この道路沿いにあるSSで給油しようと考えた。ちょうど反対車線側に支店が契約しているSSの店舗があったからである。
 目的のSSに近づくと、Kさんは右のウインカーを点灯させ、右折のタイミングを待った。ところが反対車線の交通量が急に増え出し、Kさんはなかなか右折することができなかった。まいったな…誰か入れてくれよ…Kさんは少し焦り始めた。後続車も途切れず、右折を止めることも難しかった。
 すると、反対車線の対向車のヘッドライトが点滅した。パッシングである。Kさんは思わず“ラッキー、サンキュー”とつぶやいた。そして、ためらうことなくハンドルを右に切った…。

 大きく鋭い急ブレーキ音に続いて、鈍い衝突音をKさんは聞いた。対向車がKさんの車の左側面にぶつかったのである。対向車の運転席から男が飛び出してきた。
 「バカ野郎、パッシングしたじゃないか!」
 Kさんはその男の怒声の意味がわからなかった。男は激しい口調で言葉を続けた。
 「何で曲がるんだよ、パッシングしただろ!」
 Kさんも言葉を返した。
 「道を譲ってくれたんじゃないんですか…」
 「だから、わからないヤツだな、こっちがパッシングしたんだから曲がるなよ!」
 「パッシングは道を譲る合図でしょう」
 「何言ってんだ、お前!こっちが行くってことだろ!」
 かみ合わない会話が続いた。この事故が原因で道路は渋滞し、周囲には後続車のクラクションが鳴り響いていた。Kさんは自分がどうすべきかわからなくなっていた……。

カッチャオの見解
 結論を先に言ってしまえば、今回のケースは単純な物損事故である。直進車と右折車が衝突した形態であり、直進車優先の原則から判断すれば、今回の事故の過失割合はKさんの方が大きくなることは間違いないだろう。
 従って、事故処理の流れも単純な図式となる(Kさんの車が営業車であることから、この車の保険は会社が契約していると判断する)。
 Kさんは営業車の対物賠償保険によって、相手の車の修理費を過失責任の割合に応じて賄い、営業車の損害は車両保険(任意)から修理費が支払われる。人身事故に発展した場合は、対人賠償保険、搭乗者傷害保険を利用することができる。もちろん、最初に警察と保険会社に連絡することを怠ってはいけない。
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 さて、今回のケースで注目したいのは、Kさんが対向車のパッシングを「道を譲ってくれる」と判断したことが事故の原因となったことである。対向車のドライバーは「自分が先に行く」という意思表示の意味でパッシングをしており、Kさんはパッシングの意味を正反対にとらえてしまったのである。
 こうしたドライバーの“サイン”は、交通法規で定められているものではない。今回のケースのように、ドライバー全てが同じ意味にとらえているとも限らない。
 そのため、こうしたサインを出す方も出される方にも注意が必要だ。今回のケースでは、Kさんがパッシングを見て「譲ってくれるのか」と思ったとしても、対向車が停車するまでは最終的な判断を下すべきではなかったのである。
 類似した例として、ハザードランプの点滅がある。本来の意味は「停止する」なのだが、道を譲ってもらった時の感謝の意を表す際にも使われている。いわゆる“サンキューハザード”だと思っている時に、停止したとすれば、非常に危険な状況になってしまう。
 つまり、ドライバーのサインに対して、思いこみを持つのは禁物なのである。そのサインが出された状況を総合的に踏まえ、何を意図したものなのかを的確かつ迅速に判断してほしい。それがしっかりと行えることが、優秀なドライバーの重要な条件だと本誌は考える。
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 北陸甲信越エリアはこれからが冬本番であり、運転には細心の注意が求められる。どうか読者の皆さんには、2005年も安全運転を心がけ、快適なカーライフを送っていただきたい。これが本誌からの新年のメッセージである。
※このケーススタディは編集部が作成したフィクションであり、実在の人物や団体等とは一切関係ありません。
また、写真も本文とは無関係です。